バトンを継ぐもの

先日、小劇場ファンという人と知り合う機会があり、思わず「どこか劇団に所属されていたのですか?」と聞いた。「いいえ」とその人はこたえた。「純粋なファンです」。「あなたのように『そっち側』の人にとったら、その質問って普通なのかもしれないけれど」。

そっち側。

この数年、自分をそうとらえたことはなかったが、がっつり関わらせてもらったINDEPENDENTに関しては、確かにそっち側、ということになるかもしれない。ただ、観客に純粋も不純もない。そっち側の人間だとすれば、いかなる状況でも、観客に満足してもらえるように全力をつくすのが使命だ。

すべてが終わった今、そんなことを考えている。

7月からはじまった一人芝居フェスティバル全国ツアー「INDEPENDENT 2ndSeasonSelection」沖縄公演は、波乱を乗り越えて閉幕した。

劇場のブログにも掲してもらったが、
http://i-theatre.seesaa.net/article/227409714.html
楽日を終えて、楽屋のすみで原稿を書いた。
私にできることは、これだけだったから。

こちらにも記しておこう。

★★★★★★★

9月16日(金)。相内プロデューサーを乗せたフェリーは、台風15号の影響で鹿児島県沖に漂っていた。数時間後に「INDEPENDENT:2ndSeasonSelection」沖縄公演の幕があく。だが、小道具と音響・照明の機材を乗せた車はここにある。先に劇場入りしているスタッフと電話やスカイプで議論を重ねる。もどかしい。

 「役者はやろう、というと思った。そういう気概を持つメンバーが揃っているから。気持ちはわかるけれど、この完成度で幕をあけていいのか。舞台装置も完璧ではない。万が一、役者の身に何かあっては」。舞台監督の小野かっこは悩んだ。情熱をくみとる一方で、冷静な声をあげるのが彼女の役割でもある。

 現地でパソコンを購入し、音響・照明の機材もなんとかリースできた。電器店やホームセンター、100円均一ショップを往復し、小道具も一から作った。手痛い出費ではあるが、最低限のものはそろった。

 「僕の答えは、いつも変わりません。可能性があるならそれに向かって全力で挑みたい」相内は、洋上からブログに記す。「今回、最も大変なのは作品を大幅に調整し直さなくてはならない出演者と、何よりそれを支えるスタッフたちです。彼らがやらないと言ったらそこまででした。彼らは、それぞれ違う言葉で、どんな形であれやれるところまで頑張ってみようと言ってくれました。僕は幸せ者です」
 ツイッターのタイムラインは、激励であふれた。

−大丈夫、きっと大丈夫。信じてるし、一緒に戦うよ。
−応援することしかできないが、応援!!!
−誰かが欠けた、何かが足りないで、損なわれるものではない。今この瞬間に、各地で祈っているのが、それこそがバトンだ。
−俳優って生き物はそんな状況こそ燃えるもんだ。最強の名はダテじゃない、アイツらなら、尚更!
全国を一緒に回ったほかのセレクションメンバー、スタッフ、関係者、観客。役者の中には、もう次の現場で本番を迎えている者もいる。それぞれの場所から、空き時間に携帯電話をくいいるように見つめる姿が目に浮かんだ。

 「理想」と「現実」に向き合い、最終的に鑑賞料金を1,000円値下げすることで、幕をあけることを決めた。

「相内さん、なんとか船から降りられそうです」。
午後2時頃だったか、制作の笠原希が耳打ちしてきた。
「でも役者さんには黙っておきます。到着したら、本番前にサプライズで入ってもらおうと思って」
いたずらっぽく笑う。強い、と感じた。

 午後5時すぎ。「気合い入れ」の趣旨で全員が劇場内に集められた。それまで一度にそろうことはなかったキャスト、スタッフの顔は少しこわばっている。そこへ、劇場の扉が開いた。相内だった。「会いたかった!会いたかった!会いたかった!YES!」と曲が響き、歓声があがる。

 船が鹿児島の港に着いたとき無理矢理降ろしてもらい、体一つで飛行機で那覇へ降り立ったという。無精髭を生やし、疲れた表情は隠せなかったが、役者一人ひとりと、がっちり握手を交わす。

「遅いじゃないかよ!」
大塚宣幸が抱きしめる

「お待たせしました。やれることを、全力でやりましょう」

空気は追い風。嵐の風は弱まらないが、桜坂劇場Bホールの入り口が、にぎわいはじめた。


 今回は、相内が選んだ10組のほかに、「地域製作作品」という枠が設けられ、各地の役者が数組、一人芝居を披露した。だが、縁もゆかりもない沖縄では、オーディションが実施できず、沖縄の演劇人を募って手を挙げたのが、与那嶺圭一といぬかいのりこだった。

 与那嶺圭一の「修学旅行」。「琉神マブヤー」(琉球放送)の出演者としても活躍する彼は、さすがに観客の心を持って行く速度が早い。ナチュラルな沖縄弁、キレのある動きで「いまいちパッとしない男子中学生」の青春を甘酸っぱく演じる。正直、沖縄の現代演劇に笑いがこれほどフィットしているとは思いもしなかっただけに、うれしさでニヤニヤしてしまう。映像を有効的に取り入れながら、憧れの「マユミちゃん」に近づいていく。ホームの有利さを取り払っても、「タモツ」のまっすぐなピュアさに、大きな拍手が寄せられた。

 そして、いぬかいのりこ。沖縄の演劇人なら知らぬ人はいないというベテラン女優も笑いを心得ていた。聞けば、幼い頃は関西に住んでいたという。ウィンナーコーヒーにウィンナーが入っていると本気で思い込む女性は、求婚と復縁を迫る男になんとか諦めさせようと「愚妻宣言」を言い渡す。冒頭、喫茶店のシーンからラストの暗転の直前まで、絶妙な間と声量で客席を“クスクス笑い”の渦に巻き込んだ。見終わった後、ずいぶん長い間話し込んだような気になった。親しみと同時に「やられた!」という感覚が新鮮だった。
 余談だが、今回機材を揃えることができたのは、彼女が人脈を生かして奔走してくれたおかげ。彼女がいなければ、この公演は成り立たなかったかもしれない。

 そして、約2か月ぶりに会う大阪の役者陣。大阪、東京、仙台、福岡、札幌、三重、沖縄。全国を回るうちに、各地の役者と交流し、客席の匂いをかぎ取り、どのように変化したのか。それが楽しみだった。誰も2か月前と同じ場所にはいなかった。

 谷屋俊輔の「はやぶさ」。「魂は宿っているはずだ」のセリフが、心にすとんと落ちてくる。表情を追ううち、いつの間にか自分の手を握りしめていた。公演を重ねて、金色のシャツは鈍い色になったが、谷屋の動きと感情の流れは反比例するように研ぎすまされている。圧巻だったのは、これまで後ろを向いて去っていたラストシーン。沖縄では舞台の奥行きと照明の位置を考慮して、真正面から演じた。発光しながら闇に消えゆくはやぶさが、脳裏に焼き付いて離れない。

 ウェディングドレス姿で30分間をかけぬける、ヤマサキエリカの「赤猫ロック」は、すごみを増した。母親が亡くなってから火葬場のくだりでは、客席で鼻をすする音が多く聞こえた。少女から女性に変わるその間。さんざん格闘しながら、ついに沖縄の舞台でゆるぎないものを見つけたことは、聞かなくてもわかった。本番後、彼女は「客席に奇跡のような温かさがあった」と言っていた。2009年から一体、何キロを走ったのだろう。彼女の精神力と足の裏に拍手したい。

 脚本の鉄板ネタに加え、“ご当地ネタ”をサラリと仕入れる大塚宣幸の「101人ねえちゃん」は、役者間でも話題の的だった。今回は「ちんすこう」と沖縄弁を盛り込み、楽日には101人の中に榮田やいぬかいの名前も登場。決して内輪ネタではなく、連続して観ていれば必ず笑えるものだ。リハーサルを見て知ったのだが、彼は徹底的に見せ方にこだわる役者だった。沖縄弁も、本番直前までいぬかいの沖縄弁を録音して聞き込んでいたらしい。沖縄の地に確実に“爪跡を残した”。

 那覇でも軽やかに食べ続けた榮田佳子。男の家を渡り歩く、とらえどころのない女性は沖縄の空気を受け、さらに解放されていた。劇場入りした途端、舞台を見てイトウワカナが演出を加えはじめ、榮田が瞬時に対応していく。加藤組の「マラソロ」から受け継いだイントロ曲もすっかり自分のモノにし、エロさも全開。冷静に考えると苦行のような暴食だが、榮田の底抜けの明るさはオンでもオフでも変わらない。だからこそ、この作品を笑って見られるのだと改めて感じる、強い舞台だった。

 結局のところ、沖縄公演は大阪のクオリティにひけをとらない、いや、役者に限っていうとそれ以上の出来だったのではと思う。そう感じさせるスタッフのテクニックと気概にも脱帽だった。

 ツイッターでの盛り上がりを受け、楽日は舞台をユーストリームで中継することになった。異例のことではあるが、沖縄公演の波乱をただ見守るしかない全国の観客に向けてのスタッフの配慮だった。
 「#inSSS」のタイムラインは即時に驚き、激励、感想であふれた。中には、本番直前の役者の声も。ツイッターを読みながら泣けてくるというのは、初めての感覚だった。
 生中継を見守った演出の早川康介は、本番を終え「ダメ出し100個くらいあるけど、大塚くん、お疲れさま。101人ねえちゃんを、おもしろくしてくれてありがとう」と、彼らしくつぶやいた。

 打ち上げの席では、Sun!!、玉置玲央、福山俊朗、横田江美、加藤智之、山田百次らセレクションメンバーから次々と電話が入り、携帯が忙しく役者の間を往復した。何を話したかは知らない。ツアーをともにかけぬけた同志の沖縄最終公演への思いは、計り知れないものがあるのだろう。楽日にフラリと沖縄へ現れた「赤猫ロック」演出家の戒田竜治が、お開きの間際「ありがとう」と、ヤマサキに握手を求めたのも私は見逃さなかった。

「劇団を超えた出会い、多くの地域とつながりを作りたい」

そう考え、プロデューサーとして相内が仕組んだ「INDEPENDENT」。10年目にまた新しい歴史が刻まれた。こんな風に困難を越えて、まだ見ぬ役者、脚本家、演出家の組み合わせ、そして各地の劇場へ、バトンはつながっていくのだ。

大阪公演、終了〜

7月28日(木)午後6時30分、大塚宣幸の「101人ねえちゃん」からはじまった、インディペンデント。

それから75時間後…、Sun!!の「スクラップ・ベイビィ!」で、大阪公演の楽日が幕を下ろした。
全シーンをすべて目に焼きつけた者として、書かずにはいられなかった、のでバラシを待つ2時間、ネットカフェにこもって書いた原稿をちょっとアップしてみる。

★★★★★★★★★★★★★★★★
 
Sun!!のカーテンコール後、キャスト・スタッフ全員のエンドロールが流れ始めると、大喝采が。いつの間にか、客席にこっそりまぎれていた(!)役者が立ち上がって、全員がエールを送り合う形に。10人の役者は、拍手に背中を押されるように舞台上へ。相内プロデューサーも、檀上にあがって「これから全国へ旅立ちます!」と宣言し、会場は熱気に包まれた。

フジロックが夏の代表的な野外フェスだとするなら、ガチかぶりのこちらは日本一熱い、“一人芝居フェス”。10作品をまる一日かけて10本見るという、客側の根性も問われるロックなイベントといえる。
斉藤和義をあきらめたから悔しくて言っているわけでは決してない)

途中で二度、1時間のインターバルがあるとはいえ、約8時間という長丁場を劇場の中で過ごすなんて、演劇無関係者からしてみれば、異例のこと。しかし、手には受付でいただくビール(2杯目以降も200円という驚異的安さ)、立ち見のカウンター席や、テーブル席など、思い思いのポジションから好きな作品を鑑賞できる“ご機嫌スタイル”が、この大阪公演の素晴らしさといえる。

見続けた4日間には、大きなうねりがいくつもあった。芝居は生もの。作り込んだ作品に加え、お客さんが放つエネルギーをすぐさま笑いに変換したり、アドリブにつなげるといった、ライブ感覚を盛り付けていく役者陣の術には脱帽!としか言いようがない。

どの日もそれぞれによかったが、一番印象的だったのは7月30日(土)だ。
トップバッターの福山俊朗が5分もたたないうちに客の心をわしづかみ。笑いと泣きが同居するストーリーを完璧に仕上げて、Sun!!にバトンタッチ。完成度の高いファンタジーの世界に心うばわれ、泣きにさらに拍車がかかったところで、玉置玲央の悪魔的な魅力に理性がぶっ飛び、「とんでもないもの見た気がする…」とボー然となる。あっという間に1ブロックが終了。

休憩をはさみ、心が落ち着いたところで、また加藤智之の際どさにあっけに取られるも、いたって純粋なラブストーリーであった事実に女子的感情が乱された後に、ヤマサキエリカの笑顔に縁取られた悲劇。「これって…」と、考え出すと背筋が凍るような感覚に。
その後、満を持して大塚宣幸が登場。玉置の「いまさらキスシーン」をアレンジしたアドリブで、登場3秒で客席を笑いの渦に巻き込み、その後も10秒に1度は笑いをさらう。次はさらに一転、横田江美の結末まで気を抜けないサスペンス。感情をあらわにしない盲目の占い師の不思議な姿が脳裏に焼きつく。2ブロック目のラストは、谷屋俊輔。はやぶさそのものをパワフルに擬人化し、計算されつくした肉体の動きと音、光でスケールの大きな宇宙の世界へいざなう。

ええもんみたなあ、と思ったら、外はすっかり夕暮れ。


劇場外の商店街で小腹を満たし、
(というか、この日は31歳の誕生日だったので、観に来てくれた友人が、王将で天津飯とビールをおごってくれた)
さてさて、ラストのブロック。

北海道からの刺客・榮田佳子が舞台上で食べ続ける。あまりの食べっぷりに、客席の男性から称賛のため息がもれる。トリは、山田百次。こちらに、津軽弁を理解するスキルはないのに、豊かな表情に魅せられ、耳は音楽を取り込むように物語を理解しはじめる。ラストは、誰もが笑顔になったはずだ。
怒涛の8時間をともに駆け抜けた客席には、一種の連帯感すら生まれていたような気がする。

この日は10作品から、ひとつの大きなうねりが立ち上がった。このセレクションそのものが、劇場としての「ひとつの作品」と相内さんの言った意味がよくわかった。今年、この「インディペンデント」のうねりに出会えた人は幸せだ。本当にそう思う。

役者の中には1年後のスケジュールまで埋まっている人もいる。この顔ぶれで同じ作品をなぞることは、おそらくもう二度とないだろう。
土日のチケットは1週間前(だったと思う)に完売した。インディペンデント始まって以来のスピードだと聞いたが、その嗅覚は正しい。

幕が下りた後、暗転の中に漂う興奮。その後の割れるような拍手が忘れられない。

★★★★★★★★★★★★★★★★

毎日打ち上げに呼んでいただき、役者や演出家といっぱい話をした。

実のところ何話したか、あんまり覚えてないけど。
ほぼ初対面の人ばかりだったのに、4日連続で酒を飲んだり、ラーメンを食べたりしていると、13年分くらいの距離が一気に縮まった、そんな気がする。

アドレナリンが噴出してたことも確か。

午前3時頃帰って、鏡を観たら、前髪が2cm短くなってて、自分の顔がランランと輝いていた。

一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT」 全国ツアー

同じ芝居を2回以上みる。

というのは、よく考えたら高校3年生のとき以来かもしれない。
2回みて、大学生になったらこの劇団に入ろうとを決めた。

10年以上前の話で、舞台にあがることはなくなったけれど
結局私はまだ芝居とつきあっている。

5年前から関わらせてもらっている大阪・日本橋の「インディペンデントシアター」という劇場で、
一人芝居フェスティバルが始まっている。

一人芝居というと、白石加代子とかイッセー尾形(古いか?)くらいしか思いつかない人も
いるかもしれない。

いやいや。同世代の役者による、危険なほど愉快な一人芝居フェスティバルなのだ。
フェスティバル自体は毎年行われているが、
今年は10年目の節目ということで過去5年間に上演された中から、
プロデューサーの相内さんがセレクトした10作品を再演する

「INDEPENDENT」

が木曜からはじまっている。


わけあって、全ユニットのパンフレットインタビューを書かせていただくことになり、
ほれっぽい私は、インタビューを書いた10組のことが大好きになってしまい
期間中は、仕事を放り出して、今日も明日も劇場に通いつめる。

大阪は、土日完売。

東京は8月4日(木)〜7日(日)@こまばアゴラ劇場
仙台は8月20日(土)、21日(日)@仙台市市民活動サポートセンター
福岡は8月27日(土)、28日(日)@ぽんプラザホール
札幌は9月3日(土)、4日(日)@コンカリーニョ
三重は9月9日(金)、10日(土)@三重県文化会館小ホール
沖縄は9月16日(金)、17日(土)@桜坂劇場

一劇場プロデュースの芝居が、全国ツアーなんて前代未聞だ。
騙されたと思って、みにいってほしい。

クオリティは、どのユニットも素晴らしい。
個人的には、加藤智之の「マラソロ」、玉置玲央の「いまさらキスシーン」、
山田百次の「或るめぐらの話」は、ちょっと頭を殴られたような気分になった。

公演終わりに、毎夜酒を酌み交わしながら話している。
何かと戦う人たちの姿はこれほどにかっこいいものかと、電流の走るような思いでいる。




蛍光灯のついた劇場。
ビールを片手に、客席側から自分の立つ舞台を見つめる背中。

ままごと「わが星」

半年ぶりぐらいの更新。

今日は久々のアイホール。ままごとの「わが星」です。
昨年11月に大阪で観た「あゆみ」が素晴らしく、
また、柴幸男がこの作品で「岸田國士戯曲賞」を受賞したということもあり。

以前友人と飲んでたときに、震災以後の壊れた日本を
演劇界では誰がどのように表現してくるか、ということが話題になりました。
そこで気になったのがこの「わが星」というタイトル。

ただ、この作品は震災前に作られたもので今回は再演なのだけど
私は興味があった。

でも、結論からいうとあまりそれは関係なかった気がします。

ごく平凡な団地住まいの家族の数十年を切りとった物語。
家族のメンバーや登場人物は、太陽系の惑星になぞらえられてて。
主人公のちいちゃんは地球、お姉ちゃんは太陽、
友達のつきちゃんは月。
ちいちゃんがぐるぐる回れば時は進み、
成長とともに月ちゃんとは少しずつ離れていく。
ちいちゃんと月ちゃんの「ままごと」は、
なんだか涙が出そうになる。

舞台上にはごくごくありふれた口語だけ。
BGMには時報がなり続け、
役者の声は自然とラップのリズムをきざむ。
役柄が一瞬にして、別の人に乗り移る違和感のなさ。

計算しつくされた演出法と体の切れ。

文句なしに、かっこいいのです。

でも、私は「あゆみ」の方が好きだった。
なにか、もう一つ、すっきりしないせつなさが残りました。

観終わってから、パンフレットに挟まれていた
柴さんのコメントを読みました。

「数か月では何も変わらないのだと無力感を覚えつつ。
(中略)変わらない、変えがたい大きな流れの中で
必死に変えようとする小さな力もこの作品は描いている。
今はそう思いたい」

表現者として葛藤があったんだろうな、と思わせる内容でした。

この人の世界のとらえ方は説得力があるし、見る人を救う力を持っていると
私は勝手に考えています。


だけどそう簡単には、この作品が「今」は消化しきれない。

きれいごとじゃないけど、彼が描く希望を渇望している。
希望が持てる作品を、今度は観たい。

はやぶさ…

おととい、大阪市立科学館に「HAYABUSA」を見に行きました。

一応映画、という位置づけなんですがCGではやぶさの軌跡をたどった科学館のオリジナル作。


たった45分の作品なのに「感動する」「泣ける」と話題を呼び10万人を動員。半信半疑のまま、夏に向かったもののチケットはいつも完売。本気を出して先日ようやく…。



泣けます。確かに。

ナレーターはウルトラマン・タロウの篠田三郎さん。「はやぶさ…君はどこへ行ってしまったんだ…もう会えないのか…」

擬人化の陳腐さ、子供騙しの気は一切なし。
プロデューサーのはやぶさにかける思いの本気度が、大人ばなれしているというか…とにかくやられました。


そうこうするうちに、今日、はやぶさがやはりイトカワの微粒子を持ち帰っていたというニュース。二重の感動を味わっています。

どんなに深刻な問題を抱えていても、はやぶさの地球帰還と成し遂げた偉業に比べたら、しょぼいことこの上ないわけで。


なんかやぶれかぶれの自分に勇気がもらえます。

柴幸男・ままごと「あゆみ」

柴幸男・ままごと「あゆみ」をみました。今年、岸田國男戯曲賞を受賞した人と知り、演劇から離れている私にとって、それぐらいしか指標がなく、でも青年団の人のだし、好きなテイストだろうと期待して。

あ、大正解でした。

8人の女優が「あゆみ」という一人の女性の一生を演じるそれだけ言うと、なんてことない芝居なんですが、演出がすごい。

全員が「あゆみ」役であり「あゆみのまわりの人」役。しかもセリフの途中、動きの途中でバトンが受け渡される。性別や空間は一瞬でひょうと飛び越える。

「役者」の技量とか身体性、個性を無視した流行のものかと(勝手に流行している気がしている)はじめは思ったが、見進めるうちに、どんどん「あゆみ」そのもの引き込まれていく。


とても不思議な現象が観客の心の中に宿る。

私が見ている「あゆみ」は、どこにでもいる女性で、誰もが抱える感情だけで動いているのだが、複数の役者の身体と感受性を通すことによって、唯一無二の複雑なあゆみ像が生まれる。

舞台装置はなし。

音響もなし。

全員白い服、赤い靴。

赤い靴は小道具として「男子のねり消し」「憧れの先輩の文庫本」「受話器」「傘」と七変化する。

いたってシンプルな空間に、若い女性8人の声と体がありったけ張られる。

いい意味で、高校演劇好きするテイストに近い。

欲しい靴を買ってもらえずダダをこねた日、いじめに近い小学生女子の陰湿さ、憧れの先輩がロンドンに留学する失望、上京、就職、後輩との交際、結婚式、母の死…。
たった75分の中に走馬灯があった。

特に結婚式に素直になれない父親とバージンロードを歩く練習をするとこ。シーンにして3分ほどのものの中に、不覚にも泣きかける。

人間が死ぬまでに1億8000万歩、歩くのだそうだ。
その「歩み」とかけて、足にさりげない動きを入れているのも心憎い。

2つ年下ですが、すごい演出家さんが出てきたなあと。

今日は、9:00から映画「十三人の刺客」をみて、11:30から「ナイト&デイ」をみて、14:00から、この芝居と、日本中で一番文化の日を満喫した人ではないかと恐れている。

ビバ!ソウル!

ソウル熱が高まっています。


だんなさまの転勤でソウルに引っ越した先輩が
「遊びにおいでー」といってくれたので、真に受けて
のこのこと行ってきました。


焼き肉を食らい、小顔マッサージをし、買い物に興じる、
ベタな過ごし方をしたい、という私の希望を見事にかなえてくれました。

韓国人の「なにごとにもまっすぐ」という国民性を感じました。

まっすぐゆえに、小顔マッサージは全力で挑まれ、
リンパというリンパを流されまくり、
「ちょっといたいです」とか「ピリピリします」とかいう日本語を
まったく理解してもらえず、半裸状態で4時間の苦痛に耐えたものの
結局小顔になったかといえば「ちょっとやつれた」程度で
カード払いをしようとしたら、現金にしてくれと言われ、
手持ちがないというと、銀行まで一緒についてきてくれました。
(連行される犯罪者のようでした)

ファッションもまっすぐ。基本的に女子は生足&ミニスカ。
激安天国「高速バスターミナル」や「DOOTA」には、私の大好きなヒョウ柄
パンチのきいた原色アイテムが満載。
そしてよく見るとヴィヴィアン風だろうと、エルメス風だろうと、
キャスキッドソン風だろうとおかまいなし。

「ええもんはええんじゃい」

と、開き直って流行を貪欲に追いかける姿勢に共感しました。


京都のような奥ゆかしさはまったくなし。
ノリ的には、なんばに似ていますね。

絶対に合わないと思ってしまっておいた服を
取り出すと、いやにしっくりきて照れてしまう。

そんな感じです、ソウルとの出会い