柴幸男・ままごと「あゆみ」

柴幸男・ままごと「あゆみ」をみました。今年、岸田國男戯曲賞を受賞した人と知り、演劇から離れている私にとって、それぐらいしか指標がなく、でも青年団の人のだし、好きなテイストだろうと期待して。

あ、大正解でした。

8人の女優が「あゆみ」という一人の女性の一生を演じるそれだけ言うと、なんてことない芝居なんですが、演出がすごい。

全員が「あゆみ」役であり「あゆみのまわりの人」役。しかもセリフの途中、動きの途中でバトンが受け渡される。性別や空間は一瞬でひょうと飛び越える。

「役者」の技量とか身体性、個性を無視した流行のものかと(勝手に流行している気がしている)はじめは思ったが、見進めるうちに、どんどん「あゆみ」そのもの引き込まれていく。


とても不思議な現象が観客の心の中に宿る。

私が見ている「あゆみ」は、どこにでもいる女性で、誰もが抱える感情だけで動いているのだが、複数の役者の身体と感受性を通すことによって、唯一無二の複雑なあゆみ像が生まれる。

舞台装置はなし。

音響もなし。

全員白い服、赤い靴。

赤い靴は小道具として「男子のねり消し」「憧れの先輩の文庫本」「受話器」「傘」と七変化する。

いたってシンプルな空間に、若い女性8人の声と体がありったけ張られる。

いい意味で、高校演劇好きするテイストに近い。

欲しい靴を買ってもらえずダダをこねた日、いじめに近い小学生女子の陰湿さ、憧れの先輩がロンドンに留学する失望、上京、就職、後輩との交際、結婚式、母の死…。
たった75分の中に走馬灯があった。

特に結婚式に素直になれない父親とバージンロードを歩く練習をするとこ。シーンにして3分ほどのものの中に、不覚にも泣きかける。

人間が死ぬまでに1億8000万歩、歩くのだそうだ。
その「歩み」とかけて、足にさりげない動きを入れているのも心憎い。

2つ年下ですが、すごい演出家さんが出てきたなあと。

今日は、9:00から映画「十三人の刺客」をみて、11:30から「ナイト&デイ」をみて、14:00から、この芝居と、日本中で一番文化の日を満喫した人ではないかと恐れている。