清水ミチコと矢野顕子

高校演劇鑑賞ツアー隊が結成されてもう何年か。

高校教師の男友達、その同僚の先生、わたし。

今回は群馬からやってきた友達の後輩、ひとみさんが巻き込まれた。
京都に来たなら、神社仏閣、史跡名勝、グルメ巡りとかいろいろあるだろうに
ひとみさんは、あっけなく車に乗ってしまった。

行き先は京都造形大学・春秋座(劇場)。
車内BGMは「YouTubeからとった矢野顕子のモノマネをする清水ミチコ」←音声のみ。
観劇の演目は「村田さんと東尾さん(改)」。

ここでフツウならなにかおかしい、と気づくものだが彼女はかわいい顔でニコニコしているので「ほんまにええんか?」とこっちがとまどってしまう。

それにしても大谷高校の「村田さんと東尾さん(改)」にはやられた。
この世の中で見られる人はもういないと思うので、ネタもばらす。

舞台は部員が2人しかいない弱小演劇部。ここまではよくあるパターン。
演劇部として認められる日を夢見て、ESSのエキストラやバスケ部の応援などをして苦悶の日々を過ごしている。これもまあ、ありがち。
そしてもちろん2人の名前は、村田と東尾。ヒネリのないタイトルだ。

しかし、観客はクライマックスで今までの流れすべてが脚本だったことを知らされる。
脚本を書いていた「村田さん」が退部したため、そこまでしかストーリーがないのだ。
実は「村田さん」を演じていたのは田中という子で、「村田さんは田中さんの真似がうまい」という設定なのだが、
田中は自分の真似をする「村田さん」を演じていただけで、しかも部員でもなんでもない助っ人ということが判明する。

たったそれまでといえばそれまでなのだが、このどんでん返しの無茶さに、心底驚き笑わされ「ブラボー」と叫びたくなった。
舞台には根拠不明のエネルギーがうずまき、女子度の低そうな役者2人がこの芝居に賭ける情熱がほとばしっていた。

もう一つ、チェーホフの三人姉妹を現代版に置き換えた「SISTERS」(神戸高校)という作品もあったのだが
こちらは、脚本、演技とも優等生的であり、まあ全国大会出場は納得にしても全国制覇するにはパンチが少し足りない気がした。

帰りに「猫町」でお茶して、また清水ミチコが流れる車に乗り込んだ。

清水ミチコ」には、矢野顕子のみならず桃井かおり田中眞紀子デヴィ夫人えなりかずきなどのバージョンがあった。

本当は、矢野顕子なんてはじめから存在していなくて、矢野顕子を演じる清水ミチコしかいないのではないか。

この世の芸能人はすべて、清水ミチコ一人なのではないか、という幻想にとらわれた。