3人伝説
「どんなに有名な人でも、その気になれば人間を3人介せば会えない人はない」
というのは兄の名言で、たぶん兄も誰かから聞いたことだと思うんだけど、その言葉を初めてきいたときわたしはなぜか、それは本当かもしれない。と何の根拠もなく思ったことを覚えている。
ということを、久々に思い出したわたしはそれを3人伝説と勝手に名付けている。
何度も書いているけれどわたしは斉藤和義のファンで、せっちゃんのためなら、朝まだ暗いうちに起きて豆腐を買いに行ったり、寒い新興住宅地の夜、犬と二人で散歩することだって厭わない。
日曜日、会社に遊びにきたカメラマンの丹波さん(仮名)が私のデスクの前のポスターを見て
「にんたまってせっちゃんのファンなの。おれ、せっちゃん友達だよ」
って言ってたふぉ、と今朝先輩が口をもぐもぐさせながら言った。
(日曜私は会社にいなかった)
それを聞いたわたしは、一瞬なにが起こったのかわからずに、ハトマメみたいな顔をした。
こんな仕事をしていたら、そりゃいつかはもしかするとそんな日が来るのではないかと思っていたけれど、まさかこんなに早く来るとは。
「こんろ、丹波っちに頼んでみなー」
先輩は、誰かの小豆島土産のオリーブウエハースを食べている。もぐもぐ。
「どどどっどど」
「ろしたー?」
わたしは、空中をふわふわ浮いているような気分で、ふだん100ない血圧も多分500くらいに上がって、貧血どころか貪血になる。
わたしは、こわくなる。
せっちゃんに接見。
人生の目標のうちの一つを早々にクリアしてしまったあとの自分はなにを支えに生きていけば良いのか。
不安になる。
ろうしよう、ろうしよう。
誰かの愛媛土産のタルトを噛むこともできずに、口の中でべちゃべちゃにさせて冷や汗をかくわたしの気持ちなんて一体誰にわかるというのか。
年明け早々、ハードボイルド。