くるった結婚式

劇団時代の大切な友人の結婚が発覚し、結婚パーティを計画した。

半年前、ホルモン焼きを食べていると
「あ、俺、結婚したから」

とさらりと言われて、その場にいた全員が鼻からホルモンを出し店中に響きわたる声で

「えええええええええええええええええええええええええ」

となり。

どうやら奴は、結婚式を挙げないつもりらしく、しかしそれはうかうかと見逃せないので、悪友と最高に迷惑な祝い方をしようと7月1日に「結婚式」をお祝いに贈ろうと決めた。
この数ヶ月間考えぬいたラインナップは、同期の働く祇園の高級レストランを借りきり、同期メンバーすべてがおおよそ結婚とはまったく関係のない以下のような芸を披露しながら祝うというもの。

1、餅吸いショー(ゆでて固めたサトウの切り餅1kgを一気に吸う ) BGM:欧陽菲菲「Love Is Over」
2、四十八手実演会(当日、リコーダー演奏に変更)
3、忍者ショー(当日、官能小説の読み聞かせに変更)
4、26歳女子3人による歌謡ショー : モーニング娘。「恋愛レボリューション21」
5、27歳M男と新婦によるSMショー(当日、新郎新婦がろうそくを持ち、奴の背中にろうをたらすキャンドルサービスに変更)BGM:長渕剛「とんぼ」
6、シェフ見習いのIによるサバの解体ショー(当日魚加工品の贈呈に変更)BGM:エマニエル夫人
7、講演「僕の給料明細」 (当日、紙芝居に変更)BGM:エルトン・ジョン「Your Song」
8、新郎との想い出を語り、本気で泣かせて辱める
9、ケーキ入刀(おっぱいケーキをつくり、乳頭部分に入刀)

「7年前、僕たちはキチガイという甘美な響きに憧れて、くる日もくる日もキチガイに近づこうと努力をしていた」

と一人が挨拶で言った。小劇場演劇を志す者にとって「キチガイ」とは自分の限界も観客の限界も無視し、ただただやりたいことを追究し、観る者にある種の恐怖感と驚きを与える偉大な獣のようなイメージではないかと思う。

私たちは、丸4年かけて「キチガイ」に近づくためにケンカもしたし、泣きもしたし、わめきもしたし、塞ぎもしたし、息が吸い込めずに死ぬのではないかというほど笑いころげた。「死ね」と他人を詰る自分をゴミとかクズとか思いながら、裏方のつくってくれた舞台に立ち続けた。

4年ぶりに会ったにも関わらずなんでこんなくだらんこと延々としてるんや、と思ったけど、すべてのプログラムがマジで進行しているのを見てだんだん学生時代の高揚感が再発する。こんな集団を、私は他に知らない。大学時代を誇りに思う。まさか26歳になってまで、カラオケボックスの中でモーニング娘。を徹夜で踊り狂って練習するなんてことは想像すらしていなかったが。

すべて新郎のためかと言われるとそうでもない。祝いの席で中途半端なことはしたくなく、そのスタンスが私らなりの祝い方で愛し方で冷やかし方だった。

私たちのことは何一つ知らない新婦が、最後に感動して泣き出した。

それをみて、こいつの嫁さんがこの人でよかった、さすが、この嫁さんを選んだあいつ、と、わたしは少しじーんときた。

「次はだれかな」

といいながら、わたしたちは戦々恐々と、別れた。